「積極思考の落とし穴」
「背伸び・強行突破」型と「甘え・へたり込み」型。この連載エッセイは、人の、2つの反応パターンから、いろいろな問題を読み解いていく。今回は、「積極思考」「潜在能力」といった積極的な生き方にかかわる哲学について考えてみたい。
「積極思考」とは、物事の肯定面を重視し、明るい見通しを持って積極的に進んでいくことで、自分の潜在的な可能性を最大限に引き出していこうとするものである。人生は冒険の連続である。この考え方自体、まちがってはいない。しかし、ただ単純に事態を楽観視し、楽天的に進んでいくのだとしたら、それはまちがっている。
たとえば、大会社を創設した社長は、確かに積極思考を語るが、同時に、会社をつぶし、最後は犯罪にまでかかわってしまうダメ経営者も、やはり積極思考を語る。依存・嗜癖の患者さんなどに至っては徹底した積極思考者である。「いつか賭事を極めて必ず大金を手にする」「これさえ購入すれば、すべてはうまくいく」。このように積極思考で人生をダメにする人は、(おそらく人生の成功者よりも)多いのである。
それではどのように積極思考を生かし、人生の成功者を目指せるのか。
第一に、物事の否定面、自分の弱さや問題を十分に直視し、認めた上で、あえて物事の肯定面も見ていこうとすることが必要である。最初から、肯定面、楽観論を探すだけの生き方は、まやかしであり、あまりにも薄っぺらである。しかし、否定面をも見据えたうえで絞り出す積極思考には深みがある。そこには地に足のついた現実性が含まれている。
第二に、「なせばなる」という自己万能感ではなく、いかなる現象にも自分の思惑を超えた意味があるだろうという謙虚な姿勢が必要である。自分の都合の良いように楽観的に解釈していこうとする人は確実に解釈をゆがめていく。そうではなく、自分の今賭けている冒険は、自分以外の意志によっても導かれているのだという使命感や諦念のようなものである。信仰者はこの点、本来圧倒的に有利なはずである。
「背伸び・強行突破」型の人であろうと、「甘え・へたり込み」型の人であろうと、冒険や失敗の後の再出発に際して、このような自己点検は不可欠である。自分の弱さや限界をきちんと認めたうえで、いわば「良い意味で開き直る」プロセスこそ、真に積極的な生き方を続ける秘訣である。
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