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著者プロフィール


カウンセリング・マインド


藤掛明氏


ある学習塾講師の話

「背伸び・強行突破」型と「甘え・へたり込み」型。

この連載エッセイは、人の、2つの反応パターンから、いろいろな問題を読み解いていく。今回も前回にひきつづき、具体的な事例を紹介したい。

B氏は、ある学習塾の講師として活躍する三〇代の男性。彼はエネルギッシュで、人なつこくて、生徒にも大人気であった。もともと高校野球で活躍し、もしかしたらプロ選手になるかもしれないという時期もあったが、肩をこわし、野球人生は断念している。しかし、今は地元の草野球の監督もし、塾でも、塾以外でも子どもたちの相談にのり、教育者として活躍している。とにかく忙しい毎日で、夜帰宅してしばらくが、息のいれられる貴重な時間になる。この半年は夜パチスロに出かけることが習慣となり、そうしないと気持ちがすっきりとしないように感じている。パチスロで負けた分の、内緒の借金が百万円を超えたころ、不覚にも妻にばれてしまった。妻の圧力で、仕方なくカウンセリングを受けることにした。B氏は「返すあてはあるし、パチスロは趣味。妻がギャンブル嫌いなので、問題にされた」と我が身の不運を嘆いていました。
このB氏もまた、「背伸び・強行突破」型の生き方が息切れ状態に陥っている人である。B氏は夫婦仲は良く、家内の会話も潤沢に見えたが、実は本質的な話題は少なく、パチスロの借金に至っては、些細なことで発覚してしまうまで隠し通していたのである。
B氏はまさに後悔するが悩まずで、「運が悪い」「偶然」「あのとき、あのことがなければ」といったきわめて表層的な言い訳を口にしていた。
B氏は、野球選手で挫折したが、仕切直しをして教育者としての道を歩み始めた。しかし、実際は満足しているわけではなかったのである。自分の教育の場が、学習塾であることにもどこか満足していない。一種の劣等感、無力感があるのである。だから、それを払拭しようとかなり無理をして活動の質量を拡大し続けていたし、本人からするとそうした路線には限界を感じていた。ギャンブルでの成功はいわば幻想的な成功である。現状で満足できないB氏が、ギャンブルで派手な成果を味わうことで自分の無力感や劣等感を払拭していたと考えられる。
B氏は、ここで立ち止まり、生き方を変える必要に迫られていたのである。あなたやあなたの周りの人に、B氏のような生き方がないだろうか。

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