ゴスペルストーリー


本間崇敬
本間崇敬

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「光を求めてインドへ」                      

   

本間崇敬

成功願望からくる「自己実現」への道

 近代建築の巨匠、ル・コルビュジェは常に時代の先端を走り、後世に多大な影響を与えた建築界の父。そのコルビジェは晩年、教会建築を手がけたことでも知られ、「光」を空間に宿した建築物は秀逸で芸術作品のように美しい。そんな教会をいつか設計できる建築家になりたいー。
しかし、当時、建築科の学生だった私は有名建築家の著書に描かれている成功物語に魅せられ、私の心は徐々に的外れな方向へと向き始めていました。
「“優秀”な成績で卒業」→「“有名”な設計事務所に勤務」→「“尊敬”できる建築家の下で修行」→「独立して“一人前”の建築家」。活躍する建築家の多くがこのようなステップで成功していたのです。
こうした表面的なことに囚われるあまり、教会を建てる(霊的な意味ではなく、建築行為の意味)ことに対する明確なビジョンや使命感、建築の喜びなどが欠如していました。あるのは、成功願望からくる「自己実現」だけでした。
当時の私は、自己実現に必要なものは何が何でも手に入れ、必要ないものはすべて切り捨てていました。そのため、家族や友人を傷つけ、迷惑ばかりをかけていました。それでも主は私を赦し、憐み、優しく見守っていて下さいました。
また、時代は就職氷河期。成績が優秀でなかった私の卒業後の進路は絶望的でした。そんな先行き不安な状況をどこか脇に置いて、夢を見ていたかったのかもしれません。ひとまず共感できる建築家の足跡を辿りたかったのです。コルビュジェの設計した建築を見れば何か見つかるかもと、一路インドへと旅立ちました。青い鳥を探し求めて…。

なぜインドなのか―。

 コルビュジェの建築は、ヨーロッパを中心に世界中に点在しますが、インドにも代表的な建築がいくつかあります。インドといえば、膨大な人口に、あらゆる民族、宗教、階層が入り混じる「混沌」の国。この混沌の国にコルビュジェが何を思って建てたか興味がそそられたのです。
当時の自分の心境がここにうかがえます。「混沌」の中にどのような線を描けるかだろうか。そのインドの混沌の中から何とか一筋の光を見出したかったのです。
この時、私はすでに、イエス・キリストを救い主と信じ、魂に平安を得ていましたが、信仰がバックスライド(後退)し始めていました。そして、イエス・キリストではなく、自分をさらに圧倒的に変えてくれる「何か」を求めていたのです。
しかし、インドにはその探しものはありませんでした。もちろん、あるはずがありません! でも、私を愛してくれた主はそれ以上のものを建築以外のところにご用意して下さっていたのです。

「イワナミ〜大丈夫か?!」――。

 コルビュジェを見る前にバックパッカーの友人が倒れてしまいました。私は2001年、インド西部の都市グジャラート州アーメダバードに滞在していました。建築家を志す学生にとって、インドでコルビュジェ建築を見るならここしかないからです。
数週間、乾季の熱波と排ガスによるひどい空気汚染、慣れない食習慣にさらされてきた私たちの体はすでに限界を超えていました。その晩、イワナミ君は高熱を出し、激しい嘔吐を繰り返し、体は衰弱していきました。
深夜のため、病院にも連れて行かれない状況の中、友人の姿を見てほうっておくわけにはいきません。「でも、できるかな…いやしの祈り…」。信仰から離れつつあった私にとって、それはかなりのチャレンジでした。そして、頼れるクリスチャンが誰もいない異境の地で、初めてのいやしの祈りを決行に移したのです(信仰の先輩たちがやっていたことを見よう見まねで)。祈りと看病で数時間が経ち、彼はそのまま眠りについていました。
翌朝、目覚めると、イワナミ君は驚きの表情をたたえて起き上がっていました。「あれ、すっかりいいみたい」。なんと顔にも生気が戻っているではありませんか。

「主は生きている!!」

私は彼がクリスチャンでもないのに、喜んでそう言いました。そして、罪やキリストの十字架の贖い、復活、そして主は生きていることを彼に伝えました。しばらく、復活のキリストの力で満ち溢れた部屋で、私たちは主に感謝の祈りを捧げ、なんとも不思議な朝の時がそうして過ぎていきました。
今思えば、この日を境に主との交わりを私は徐々に取り戻していった気がします。友人のいやしは、知識としてあった福音が行動によって私の魂に受肉した瞬間でした。
また、歪んだ自己実現から解放され、生ける神に信頼し、共に歩む人生を選んだのもこの日から。青い鳥をつかまえるために旅立ったはずの私が、聖霊様にとらえられたのがこの旅の途中でした。

 

 

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阿部守利