「 21世紀のガウディ 」 

近藤 功 (こんどう いさお)

三代目カトリック信者、上智大学卒業、美術商歴40年

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 スペインが生んだ20世紀の建築の巨匠といえば、サクラダファミリア大聖堂の建築で知られるアントニオ・ガウディです。建築に興味のない人でも一度くらいは聞いたことのある名前だと思います。ところが21世紀にも偉大な建築家がスペインにはいるのです。その名はフスト。正式には、フスト・ガシェコ・マルティネス。一念発起して、たった一人でカテドラル(大聖堂)を建築しているという人物です。今も建築中で、まだ完成していません。少しも大それた仕事をしているなどと思っていないところが、フストのすばらしいところです。

 

 ガウディとは違い、建築はズブの素人。小学校卒の学歴しかありません。大聖堂建築に関するイタリアの書物を図書館で見たり、中世のお城やバチカン宮殿の実物を参考にしているそうです。

 

 先祖伝来の広大な農地を所有し、農業と牧畜をして暮らしていた父は、彼が10歳の時に亡くなりました。父の仕事を継いだフストは、27歳まで農業と牧畜をしていたそうです。ところが、信仰の篤かった母の感化か、妹が嫁ぐと、さっさと農業を捨てて、修道院へ入るのです。修道僧になることは、彼の長年の夢でした。選んだ修道会は戒律の非常に厳しいベネディクト修道会。ところが、10年目に重い肺炎を患い、死ぬか生きるかという事態になり、修道会を出ることになりました。彼が37歳の時でした。

 

 彼の第二の人生が始まりました。信仰の篤いフストは、自分の後半生を神さまに喜んでもらうには何をしたらよいかを深く考えました。そうして、「自分ひとりで大聖堂(カテドラル)を建築しよう!」と決心したのです。ちょうど運よく、それまで辺鄙だった彼の所有土地の付近に住宅の嵐が押し寄せ、地価が高騰したので、少しずつ土地を売って建築資金を調達しました。

 

 フストは俗人となってからも修道生活を少しも忘れていません。毎朝早く起き、聖書を読みます。次に祈りの時間を充分に取ります。パンと少しの水の朝食を済ますと、すぐに仕事に取り掛かります。彼の仕事振りは実に手際よく、みるみるうちにはかどっていきます。建築資材はというと、寄付された余った資材や、彼が考えた缶にセメントを詰めて丸柱の芯にするという、独自の工夫の限りを尽くしたものでした。百円・五百円・千円という浄財を集めた資金だけで、国や教会から一銭の援助もなしに、45年間もこつこつと大聖堂を築き上げてきました。

 

 自分の存命中に完成するとは少しも考えていないようで、自分が死んだら、土地も建築物も全て教会へ寄付すると言っています。気負いがぜんぜんないことが、フストの偉大なところです。夢と幻を持つことがいかに壮大な事業を成し得るかということを、彼は無言で、夢のない現代の若者たちに語りかけているように思えます。

 

 「人が生まれてきたのは、神を賛美するためである」 (詩編102)

 

 「二度とない自分の人生を神のために活かして生きるにはどうしたらよいか」を、フストは私たちに教えてくれます。スペインは日本と違い、「出る釘は打たれる」という偏屈な考えが少しもない国です。良いことには周囲の人が喜んで協力するという美しい習慣があるようで、非難中傷したりする者がいないというところに、偉人や天才を生み出す土壌があるのではないでしょうか。現在フストは80歳を越しました。以前と少しも変わらず、つましい生活をつづけ、今日も黙々と大聖堂の建築に取り組んでいます。

 

 20085

 

                              近 藤  功


 

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